本心と向き合う。
カーナーには、純粋な心を持ち
仏に心を向けている母親がいました。
ある日、カーナーが
母親の元に里帰りをしていたところ、
家にいる夫から
「早く家に帰ってくるように」
と連絡が入りました。
カーナーが帰り支度を始めると
母親は娘を手ぶらで帰らせてはいけない、
とお土産のお菓子を作り始めたので
カーナは帰宅を一日遅らせました。
お菓子は二人がかりで
一日かけてようやく出来上がりましたが
翌朝、家の前に托鉢中の比丘が
立っているのを見て、
母親は作ったお菓子をすべて
比丘に施してしまいました。
カーナーは仕方なく思い
再び、母と二人でお菓子を作りますが
次の朝も別の比丘が家の前に立っていたので
母親はできたてのお菓子を施しました。
このようなことが
何日も繰り返されたので
カーナーの帰宅は遅れに遅れて
怒った夫から離婚を申し渡されてしまいました。
涙を流す日々を過ごし
托鉢中の比丘の姿を見ると
カーナーは激しく罵るようになりました。
「お前たちが
私の幸せな家庭生活を壊したのだ!」
この様子に心を痛めた母親は
祇園精舎を訪ね、釈迦に相談しました。
釈迦はカーナーの家に赴き
カーナーに尋ねました。
『カーナ―よ。なぜ、泣くのだ?
なぜ、比丘たちをひどく罵るのだ?
私の弟子たちは施されたものを
受け取ったのか?
それとも、
施されていないものを奪ったのか?」
釈迦の問いかけに
カーナ―は静かに思いを巡らした後、
赤面して答えました。
「比丘の皆様は
母が施したお菓子だけを受け取られました。
比丘の皆様は、悪くはございません。」
釈迦はカーナ―の心が怒りから離れ
落ち着いたことを見ると親しく説法をしました。
その後、釈迦は精舎に戻る途中、
バセーナディ王に出会いました。
「世尊よ、あの娘から
罵られはしませんでしたか?」
王の問いかけに釈迦は
説法をして娘が心の静けさを得て
落ち着いていることを伝えてから
『彼女は来世、
心豊かな者となるだろう。』
とだけ、答えました。
そこで王は釈迦に約束しました。
「世尊よ、
私はカーナ―を現世に置いて
豊かにさせましょう。」
王はカーナ―を王宮に呼び
集まった大臣たちに彼女の善行を
伝えました。
すると一人の大臣がカーナ―を
自分の養女にしたいと申し入れ
王はこれをゆるし養子縁組が行われ
彼女は新しい父親からこう云われました。
『カーナ―よ。
お前の好きなだけ施すが良い。』
カーナ―は
夫から離婚を申し渡され
自分の家庭生活が壊されたのは
比丘のせいだと思い込んで
逆恨みを起こしましたが・・
釈迦との出会いがなければ
彼女はずっと思い違いをしたまま
比丘を恨み、比丘のせいにして
比丘に罵詈雑言を浴びせ続けて
いたのかもしれません。
自分の身に起きたことを
比丘の責任にするその罵声は
国王の耳に届くほど激しいものでした。
カーナ―の夫は
妻の帰りが遅いというだけで
離婚するような男でした。
当時、
女性の身分が低かったとはいえ
横暴な所業でありました。
カーナ―は信仰心のない家に嫁ぎ
普段から仏に触れることもできない境遇に
ありましたが・・
彼女は
心に大切に思っていたことが
「何か自分にもさせて頂けることはないだろうか」
という気持ちであることに気づいて行きました。
釈迦は、比丘たちに偈を唱えました。
底深き湖の濁りなく
清らかなるごとく
賢き者は法を聴きて
心清らかなり
私たちは日々、
何を学びながら生きているのでしょう。
自分のできないことを
他人の責任にして逆恨みをし
抜け出せない思い違いの闇の中へ
堕ちてはいないでしょうか。
本当はどうしたいのでしょうか。
本当は何を、
大切にしたくて選んだことなのか?
誰かの責任にしているときは
今一度、自分の心と向き合い
本当の目的を思い出すときなのかも
しれませんね。
大切なことはいつだってシンプル。
どうぞ今をたいせつに。